*

無料ホラー小説 めろん-8

公開日: : めろん。

 

「ただいまあ」

 玉緒が玄関を開けて帰宅の声をかけると奥から「メロン」と聞こえてきた。

 娘のマメが小学校から帰ってきていたようだ。おそらく「おかえり」と言ったのだろう。

「メロン」

「メロン買ってきたよ」

「メロン」

 マメは不思議そうな顔で玉緒を見た。

 不思議なのはお前らの方だ。と、玉緒は言いたくなったが黙って袋のメロンを見せた。

「メロン!」

 どうやらマメは喜んでいるようだ。マメはどたどたと足音を鳴らし、フォークをキッチンのシンクにあるドロワーから出した。

 玉緒はメロンをまな板に置き、半分に割り、そしてさらに4分の1に切った。

「メロン!」

 いただきますと言っているのだろう。

 玉緒もそれを見て”あまくておいしそう”と思った。

 娘がメロンを食べ終えたら私も食べよう。

 玉緒はよだれを拭うと、マメを見つめた。

めろんどうですか

芝咲 正三

しばさき しょうぞう

26歳

健康機器の訪問販売員

9月1日

18:30

 

 芝咲はため息をついている。

 この閑静な住宅街の真ん中に位置する公園で、すっかりぬるくなった缶コーヒーを握りしめて。

 ここで一つ独り言でもつぶやくのが絵というものだろうが、生憎彼にはそういったセオリーが無い。

 一言で言ってしまえば、”つまらない男”なのだ。

「もしもし、はい芝咲です。申し訳ありません、あの、まだ一件も、あ、はい。

 いえ、そんなつもりでは……、はい、了解しました。

 では、このまま引き続き周りますので、はい」

 電話の向こうの人物が誰なのかは概ね推測はつくが、電話の向こうの人物が彼に対してどのような感情を以てして話しているのか。それだけはよく分かる話ぶりだった。

 芝咲はどこにでもいる外回りの営業マンだ。成績も中の下、可もなく不可はややあり。

 今期の成績もいい結果にはなりそうにない。

 その理由はどこか。答えは簡単だ。

 単にやる気がないのだ。

 とにかく彼は上司から引き続き外回りを命じられた。

 今が18時にも関わらず、だ。

(コンプアライアンスに通報してやろうか)

 なんて考えても見たが、彼の器量ではそんなことは出来はしない。

 仕方がない、といった感じに腰を上げると目の前に聳え立つ団地へ向かった。

                        

                        

                     

                                  



このエントリーをはてなブックマークに追加

オカルト・ホラー小説 ブログランキングへ

スポンサードリンク



関連記事

【連載】めろん。98

めろん。97はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター㉓  燃え盛る家

記事を読む

【連載】めろん。25

めろん。24はこちら ・大城大悟 38歳 刑事①  綾田の話を聞いてい

記事を読む

【連載】めろん。62

めろん。61はこちら ・綾田広志 38歳 刑事⑲  不安を残しながらひ

記事を読む

【連載】めろん。56

めろん。55はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター⑪  広

記事を読む

【連載】めろん。42

めろん。41はこちら ・ギロチン 29歳 フリーライター②  

記事を読む

【連載】めろん。6

めろん。5はこちら ・玉井 典美 43歳 主婦③  私の住む部屋は団地の中でも

記事を読む

【連載】めろん。15

めろん。14はこちら ・綾田広志 38歳 刑事⑤  玉井善治は寝室のベッドでひ

記事を読む

【連載】めろん。40

めろん。39はこちら ・破天荒 32歳 フリーライター⑨  ふたりは星

記事を読む

【連載】めろん。50

めろん。49はこちら ・綾田広志 38歳 刑事⑪  坂口が言った通り、

記事を読む

no image

ホラー小説 めろん。-4

犯人はなんの共通点もない上に顔見知りでもなく、共通するものもない。 被害者も彼らの身内や面識のない

記事を読む

スポンサードリンク



Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

スポンサードリンク



【連載】めろん。1

■めろんたべますか ・綾田広志 38歳 刑事①

【夜葬】 病の章 -1-

一九五四年。 この年の出来事といえば、枚挙に暇がない。二重橋で一

怪紀行兵庫・自然に呑まれてゆく産業遺産 竹野鉱山

■わくわく鉱山ツアー どうも最東です。今回も前

怪紀行鳥取・廃墟景観シンポジウム2 天空に眠る若松鉱山

■産業遺産フォー! どうも最東です。ぺろぺろ今

怪紀行青森・東北最恐?それとも最狂?止まらないおもてなし とびない旅館《後編》

~前回までのあらすじ~ 変人がやっている旅館に

怪紀行青森・東北最恐?それとも最狂?止まらないおもてなし とびない旅館《中編》

とびない旅館 前編はこちら ■座敷童がでる宿

怪紀行青森・東北最恐?それとも最狂?止まらないおもてなし とびない旅館《前編》

怪紀行青森・死者と邂逅する場所 恐山 ■飛内さ

→もっと見る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

PAGE TOP ↑